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横浜地方裁判所 平成7年(行ウ)13号 判決

横浜市神奈川区白楽一二一

原告

長峯一郎

右訴訟代理人弁護士

瀬沼忠夫

横浜市港北区大豆戸町五二八-五

被告

神奈川税務署長 佐伯龍夫

右指定代理人

中垣内健治

内田健文

森口英昭

久保寺勝

矢澤峰夫

庄司衛

南幸四郎

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告の平成五年分所得税について平成六年七月二九日付けでした更正のうち納付すべき税額七六八五万二一〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第二事案の概要

本件は、原告が、平成五年三月三一日、その所有する土地を、富士総業株式会社に対し、六億二三〇〇万円で譲渡し、平成六年分所得税の確定申告に際し、右譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得税額につき租税特別措置法三一条の二第二項九号の特例が適用されることを前提に、納付すべき税額を七六八五万二一〇〇円とする申告をしたところ、被告が、富士総業株式会社は、本件土地上に前記特例の定める一団の住宅等を建設せずに、これを直ちに住石扶桑工業株式会社に転売しており、したがって、前記特例の要件に該当しないとして、納付すべき税額を一億五四〇二万八一〇〇円とする更正及び過少申告加算税賦課決定をしたため、原告が右各処分の取消しを求めた事案である。

一  争いのない事実等(末尾に証拠等の記載がないものは当事者間に争いがない。)

1  原告は、別紙物件目録記載の各土地(以下同目録一記載の土地を「甲土地」、同二ないし六記載の土地を「乙土地」といい、これらを併せて「本件土地」という。)を所有していたが、これを富士総業株式会社(以下「富士総業」という。)に譲渡することとし、平成五年一月一八日、国土利用計画法(以下「国土法」という。)二三条一項に基づく土地売買等届出書(以下「土地売買等届出書」という。)を横浜市長に提出し、同年二月一五日付けで、国土法二七条の四第一項に基づく勧告をしない旨の不勧告通知書(以下「不勧告通知書」という。)の交付を受けた。

原告は、平成五年三月三一日、本件土地を富士総業に代金六億二三〇〇万円で譲渡し、富士総業は、同日、原告に右代金全額を支払った。

本件土地について、平成五年三月三一日受付で、同月二五日売買を原因として、原告から住石扶桑工業株式会社(以下「住石扶桑工業」という。)に所有権移転登記がされている。

住石扶桑工業は、平成五年五月二一日ころ、本件土地上において、鉄筋コンクリート造陸屋根七階建建物(以下右建物を「本件建物」という。)の建築に着工し、平成六年三月一五日ころ、本件建物は完成した(甲一三号証、弁論の全趣旨)。

横浜市建築主事は、同月二四日付けで、富士総業に対し、建築基準法七条三項による検査済証(以下「検査済証」という。)を交付した。

富士総業は、同月三一日、横浜市に、租税特別措置法(平成六年三月法律第二二号による改正前のものも。以下「措置法」という。)三一条の二第二項九号二、六三条三項六号に基づく優良住宅新築認定申請書(以下「優良住宅新築認定申請書」という。)を提出し、平成六年四月一二日付けで、同認定書の交付を受けた。

2  原告は、平成六年三月一四日、原告の平成五年分所得について、本件土地譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得金額を五億一五一八万五八四五円、納付すべき税額を七六八五万二一〇〇円とする確定申告をした。

3  被告は、平成六年七月二九日付けで、原告の平成五年分所得について、分離課税の長期譲渡所得金額を五億一五一八万五八四五円、納付すべき税額を一億五四〇二万八一〇〇円とする更正(以下「本件更正」という。)及び過少申告加算税を七七一万九〇〇〇円とするその賦課決定(以下「本件決定」という。)をした。

本件更正に係る所得税の課税標準及び税額の算出経過は別紙記載のとおりであり、分離課税の長期譲渡所得に対する所得税額のほかは、いずれも原告の確定申告額と同額である。

原告は、平成五年分の所得税に係る課税標準及び納付すべき税額を過少に申告していたものであり、過少申告加算税は、本件更正により原告が新たに納付すべきこととなった税額七七一七万円(通則法により一万円未満切捨て)に、通則法六五条一項に基づき一〇〇分の一〇を乗じた金額七七一万七〇〇〇円に、同条二項に基づき右税額七七一七万六〇〇〇円のうち、期限内申告税額相当額七七一二万六一九九円を超える部分の税額四万円(前同様一万円未満切捨て)に一〇〇分の五の割合を乗じた金額二〇〇〇円を加えた七七一万九〇〇〇円となる。

4  原告は、平成六年八月八日、被告に対し、本件更正及び決定につき異議申立てをしたが、被告は、同年一一月八日、これを棄却する旨の決定をした。原告は、これを不服として、同年一二月五日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成八年三月二五日、これを棄却する旨の決定をした(甲一五号証)。

二  争点

本件の争点は、本件土地譲渡に係る分離課税の長期譲渡所得に対する所得税額につき措置法三一条の二第二項九号が適用されるかどうかである。

これについての当事者双方の主張は以下のとおりである。

(被告の主張)

1 措置法三一条の二第二項九号の適用要件について

措置法三一条の二第一項は、土地等の譲渡が「優良住宅地等のための譲渡」に当たる場合、当該譲渡に係る長期譲渡所得の課税の特例を適用するとし、同第二項九号は、「優良住宅地等のために譲渡」とは、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の用に供されるものであることにつき大蔵省令の定めるところにより証明されたものをいうと規定する。そして、措置法施行規則一三条の三第一項九号は、右の証明がされた土地等の譲渡とは、当該土地等を買い取り、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅を建設する個人又は法人から交付を受けた、優良な住宅の供給に寄与するものであることについての認定書の写し等を確定申告書に添付することによって証明されたものとする。これらの規定によれば、措置法三一条の二第二項九号が適用されるのは、当該土地等の譲渡が、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人に対しされた場合に限られるというべきである。

この点、平成四年一二月二二日付けで、国税庁長官が発した「所得税基本通達及び「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」通達の一部改正いについて」も、31-2-16で、措置法三一条の二第二項九号の「住宅又は中高層の耐火共同住宅」は、当該住宅又は中高層の耐火共同住宅を建設するために土地等を買い取った個人又は法人が建設した住宅又は中高層の耐火共同住宅に限られるのであるから留意すると定めている。

そして、右のような特例(以下「本件特例」という。)が、地価の高騰を抑制しつつ優良住宅地の供給、公的用地の取得を促進する見地から、本来課せられるべき税負担を軽減しようとするものである以上、その解釈、適用は、厳格にされるべきであり、安易な拡張解釈は許されないというべきである。そして、土地等の譲受人がこれを転売し、転得者において住宅の建設を行う場合や、譲受人が土地等を転売後、再取得して住宅の建設を行う場合にも右特例が適用されるとすれば、土地等の権利関係が複雑化し、その供給の安定が損われ、譲受人が土地等を再取得できなかった場合には、前記法の目的を達することができなくなるなどの弊害が生じる。

したがって、右特例の要件は、前記のように限定的に解するのが相当である。

2 本件土地売買等の経緯について

富士総業は、原告から本件土地を譲り受けた後、これを住石扶桑工業に転売することとし、平成五年二月二五日、住石扶桑工業とともに、横浜市長に対し土地売買等届出書を提出し、横浜市長は、同年三月一五日付けで、不勧告通知書を富士総業及び住石扶桑工業に交付した。そこで、富士総業は、同月三一日、住石扶桑工業に対し本件土地を代金六億四一〇〇万円で譲渡し、住石扶桑工業は、同月、富士総業に、右代金と固定資産税・都市計画税の日割清算金一一七万七一九一円の合計六億四二一七万七一九一円を支払った(以下「本件土地売買契約」という。)

富士総業は、同日、住石扶桑工業に、右金員を売買代金として受領した旨の領収証を交付し、売上として会計処理した。また、平成五年五月期の法人税申告書に添付した決算書及び不動産売買の内訳書にも、同日、本件土地を住石扶桑工業に売却した旨の記載をしている。住石扶桑工業も、右土地代金及び固定資産税を仕掛不動産勘定に計上している。

そして、富士総業は、同年三月三一日、住石扶桑工業との間で以下の「仮称「グレイス鴨居」に関する事業の協定書」を取り交わした(以下「本件事業協定」という。)。

(一) 住石扶桑工業は、本件土地上に本件建物を建設し、本件土地とともに富士総業に譲渡する。

(二) 平成五年三月三一日、富士総業は、原告から本件土地を代金六億二三〇〇万円で譲り受け、同日、これを代金六億四一〇〇万円で住石扶桑工業に譲渡する。

(三) 住石扶桑工業と富士総業は、本件建物につき共同名義で、建築基準法六条一項による建築確認申請(以下「建築確認申請」という。)を行い。設計・管理は、住石扶桑工業が株式会社和環境開発設計(以下「和環境開発設計」という。)に発注する。

(四) 本件土地及び建物の売買価格は、一四億七一五三万〇二〇〇円とし、国土法二三条の手続終了後、当事者間で協議の上、決定する。

富士総業は、本件事業協定に先立ち、平成五年三月一七日、横浜市建築主事に本件建物の建築確認申請をしていたが、右協定締結後も、建築主を富士総業と住石扶桑工業の共同名義に変更しなかったため、建築確認通知書は、同月二一日付けで富士総業に交付された。

住石扶桑工業は、平成五年四月、和環境開発設計との間で本件建物の設計・工事管理業務委託契約を締結し、同年五月二八日、和環境開発設計に、約定の業務報酬二二六六万円のうち、一三〇〇万円を支払った。

住石扶桑工業は、平成五年五月二一日、本件建物の建築工事に着手し、平成六年三月一五日、これを完成させた。住石扶桑工業は、建築主として工事費用の全額を負担し、これを未成工事支出金勘定に計上した。また、平成五年五月一八日、右建築工事の事業主として、横浜北労働基準監督署長に労働保険の届出書を提出した。

一方、富士総業は、住石扶桑工業から本件土地及び建物を買い受けることとし、平成五年五月二八日、住石扶桑工業とともに、横浜市長に本件土地の売買等届出書を提出し、横浜市長は、同年六月一八日付けで、右両名に不勧告通知書を交付した。

そこで、住石扶桑工業は、平成五年六月一八日、富士総業との間で、本件建物を完成させ、検査済証の交付を受けることを条件に、本件土地及び建物を以下の約定で富士総業に譲渡するとの土地付区分建物売買契約を締結した(以下(本件資産売買契約」という。)。

(一) 売買代金は、一四億六四三一万〇二〇〇円とする。右代金には、本件土地及び建物の代金のほか、機械駐車施設代金、設計・管理費用、外溝工事代金、負担金等本件建物を完成させるために要する費用一切を含む。

(二) 売買代金の支払は、契約締結時に手付金一億五〇〇〇万円を、小切手及び約束手形で支払い、本件建物の完成引渡時に残金を同様の方法で支払う。

(三) 本件土地及び建物の設計・管理は、和環境開発設計が行い、施工元請負は、住石扶桑工業が行う。

(四) 工事期間中に生じた近隣問題等は、住石扶桑工業がその責任において処理し、これに要した費用を負担する。

富士総業は、右契約に基づき、住石扶桑工業に対し、別表「本件資産に係る売買代金の受領状況」のとおり、手付金及び残金を支払い、住石扶桑工業は、これらを不動産事業受入金(仮受金)として会計処理し、本件土地及び建物の引渡しが完了した平成六年三月三一日、右代金を一括して不動産事業売上高に計上し、富士総業も右契約の内容に従った会計処理を行った。

以上のとおり、富士総業は、原告から本件土地を譲り受けた後、本件土地上に一定の要件を満たす中高層の耐火共同住宅を建設することなく、これを住石扶桑工業に転売し、住石扶桑工業が本件土地上に本件建物を建設したのであるから、措置法三一条の二第二項九号に該当しない。

原告は、本件土地売買契約は、富士総業の資金繰りの都合上、金融機関から融資を受けるため、住石扶桑工業と通謀して行った虚偽のもので、無効であるなどと主張する。しかし、富士総業と住石扶桑工業の間で、右契約に基づき代金の授受がされ、その内容に副った会計処理がされていること、住石扶桑工業が売買代金に加え、本件土地譲受後の固定資産税等相当額を支払っていることなどからすれば、右契約は有効に成立したというべきである。

原告は、本件土地売買契約の実質は、譲渡担保契約であるとも主張する。確かに、右契約において、本件土地の売買価格は、原告からの買受価格に仲介手数料を加えた金額とされていること、本件事業協定において、富士総業がわずか二か月後に住石扶桑工業から本件土地を買い戻す旨約していることからすれば、右契約が、富士総業に融資を得させる目的で締結されたことは否定できない。しかし、そのような目的があるからといって、右契約が直ちに譲渡担保契約に当たるということはできない。また、譲渡担保契約であるとすれば、利率の定めが存すべきところ、本件で、そのような定めが存するかも明らかでない。

また、原告は、本件建物の建築主は富士総業であり、本件資産売買契約は、実質的には、住石扶桑工業との間の請負契約にほかならないと主張する。確かに、右契約において、富士総業が、本件建物の着工のわずか一か月後に、住石扶桑工業から未完成の建物とともに本件土地を買い戻すとしていること、本件建物の建築確認申請は富士総業の名義で行われ、建築確認通知や検査済証の交付も富士総業に対しされていることからすれば、右契約が、本件建物についての請負的な色彩を帯びていることは否定し得ない。しかし、住石扶桑工業と富士総業との間で、本件資産売買契約に基づき売買代金の授受が行われ、これに従った会計処理がされていること、住石扶桑工業が、和環境開発設計との間で設計・工事管理業務委託契約を締結し、報酬の一部を支払っていることなどからすれば、これが請負契約に当たるということはできない。

仮に本件資産売買契約のうち本件建物に関する部分が実質的に請負契約に当たると解することができるとしても、前述のように、本件特例の解釈は厳格に行うべきであるから、土地等の譲受人が請負人をして建物の建設を行わせた場合に、その適用が認められるには、譲受人が譲受人たる地位のまま、請負契約を締結したことが、その契約の形式上明白でなければならないと解すべきである。そして、富士総業が、請負契約の形式によらず、一旦、本件土地を住石扶桑工業に売買し、さらに本件土地及び建物を買い受けるという方法をとった以上、本件特例は適用されないというべきである。

なお、原告は、富士総業の担当者が、神奈川税務署及び横浜中税務署に対し、本件のような土地売買の方法によった場合でも、本件特例の適用を受けられるかどうか尋ねたところ、肯定的な回答を得たと主張する。しかし、富士総業の担当者が、神奈川税務署に対しそのような相談をしたとの確証はなく、横浜中税務署に対しては、そのような相談がなかったとはいえないとしても、担当職員が、富士総業の担当者に対し、右の場合に本件特例の適用があると誤信させるような確定的な回答をしたことはない。原告の主張は理由がない。

したがって、被告が、原告の富士総業に対する本件土地譲渡に本件特例の適用がないことを前提に、本件更正及び決定をしたことは適法である。

(原告の主張)

1 本件土地売買等の経緯について

原告は、金融機関からの融資金の返済資金とするため、本件土地を、本件特例の適用を受けて譲渡税の大幅な軽減を図ったかたちで、他に売却することとして、資格のある買受人を探していた。

富士総業は、本件特例の適用を前提に、当初、自ら資金を調達して、原告から本件土地を譲り受け、分譲用マンションの建築を住石扶桑工業に発注する予定であった。ところが、景気低迷の影響で、融資の総量規制が行われるなど、資金繰りが困難な状況となったため、平成五年一月ころ、住石扶桑工業に融資の斡旋を依頼した。これに対し、住石扶桑工業は、その所有地にマンションを建築する場合、同じ系列の金融機関から融資を受けられるので、本件土地の所有名義を原告から住石扶桑工業に移転すれば、資金の融通が可能であると述べた。しかし、富士総業は、本件土地の所有名義を一時的にせよ、住石扶桑工業に移転した場合、原告の富士総業に対する本件土地譲渡が、措置法三一条の二第二項九号の、一団の住宅等の「建設を行う法人にする土地等の譲渡」に該当しなくなるのではないかと危惧し、平成五年一月ころ、神奈川税務署に納税相談に赴いた。その際、富士総業の担当者が、原告から本件土地を譲り受けた直後に、一旦、これを住石扶桑工業に譲渡して、中間省略登記をし、本件建物完成前に富士総業に所有名義を回復させる方法をとった場合、本件特例の適用が受けられるからどうかを尋ねたところ、担当職員は、原告との間で真実、本件土地の売買が行われ、その旨の契約書が取り交わされること、本件建物完成前までにその所有名義を富士総業に回復すること、本件建物の建築確認通知書、検査済証、優良住宅新築認定書がいずれも富士総業に対し交付されることを条件に右特例の適用を受けられる旨回答した。また、富士総業は、同年二月九日、横浜市企画指導課からも同様の回答を得、同年三月二二日、横浜中税務署に電話で意見を求めた際も、右特例の適用につき肯定的な見解を示された。

そこで、富士総業は、本件特例の適用が受けられるものと信じ、原告との間で本件土地の売買契約を締結した直後の同年三月三一日に、住石扶桑工業との間で本件土地売買契約を結んだかたちをとった。そして、同日、住石扶桑工業との間で、本件事業協定を結んだかたちをとった上、融資手続の終了後、同年五月一六日、同社との間で、本件資産売買契約を結んで、本件建物の建築後に、本件建物とともに、本件土地を買い戻すというかたちにした。しかし、これらのことは、融資を受ける便法としてされたもので、本件建物の建築確認申請は富士総業の名義で行い、同確認通知、検査済証、優良住宅新築認定書の交付も富士総業に対しされた。

以上のとおりであり、本件土地上に分譲マンション(仮称グレイス鴨居)を建築して販売しようとしていたのは富士総業であって、住石扶桑工業には、本件土地を必要とする理由はなく、富士総業の資金繰りの都合上、本件土地を譲り受けたかたちにすぎない。したがって、そもそも、富士総業と住石扶桑工業の間に本件土地売買契約は存在せず、仮にそのようにいえないとしても、それは当事者が通謀してした虚偽の意思表示であり、心裡留保又は通謀虚偽表示に当たるから、無効である。

もっとも、富士総業は、本件土地を、原告から譲り受けた価格より一八〇〇万円高額で、住石扶桑工業に売買したこととなっているが、これは、富士総業が転売利益を得ようとしたものではなく、右の差額分は、原告から本件土地を買い受けるに際し、有限会社ひまわりハウジング(以下「ひまわりハウジング」という。)に仲介手数料として支払った分を経費として計上したものである。したがって、このことは、富士総業と住石扶桑工業の間で、真実、売買が行われたことの根拠とはならない。

また、富士総業総業は、住石扶桑工業とともに横浜市に対し、土地売買等届出をし、横浜市から不勧告通知を受けている。しかし、これは、契約が売買の形式をとって行われる以上、それが有効であると否とにかかわらず、届出を要するとされることからしたもので、右届出がされたからといって、真実、売買が行われたとはいえない。

また、富士総業が、住石扶桑工業に対し、本件土地の売買代金として六億四一〇〇万円を受領した旨の領収証を発行し、本件土地を仕掛不動産として勘定科目に計上していることや、住石扶桑工業が、右金額を土地の契約金として入金処理していることも、売買の形式に見合うよう、それぞれの会社内部で会計処理をしたにすぎない。

また、本件事業協定は、富士総業が平成五年三月三一日、住石扶桑工業に対し、本件土地を本件建物とともに譲渡する内容となっており、このように現存しない建物の売買を約した協定は、実体を伴わないものというべきである。また、本件資産売買契約は、富士総業が、平成五年六月一八日に、本件土地及び建物を住石扶桑工業から譲り受けることとし、他方で、本件建物の着工は同年五月一〇日、完成引渡しは平成六年三月三一日としており、着工後間もない建物を売買するということはあり得ない。なお、本件資産の売買価格は、本件建物の建築費、本件土地の原価、消費税、不動産取得税、金利、管理費を加えたもので、利益を加算していない。このように、本件事業協定、資産売買契約は、富士総業の、住石扶桑工業に対する本件土地売買契約が真実、行われたかのように装うためのつじつま合せのためのものである。

なお、原告から住石扶桑工業に対し中間省略登記がされていることも、登記は単なる対抗要件であって、所有権の移転を示すものではなく、また、右登記は原告が知らない間にされたもので、無効であるから、本件土地の所有権が、原告から住石扶桑工業に移転したことの根拠にはならない。

2 本件建物の建築主について

前述のとおり本件建物の建築主は富士総業であり、住石扶桑工業は、本件建物の請負人にすぎず、建築主には当たらない。このことは、本件建物の建築確認申請、これに伴う消防資料の提出、横浜市環境事業局への届出、工事完了の届出、優良住宅新築認定申請が、いずれも富士総業の名義でされていること、建築確認通知書、確認書、建築基準法に基づく水道供給の確認済証、検査済証の交付も、すべて富士総業に対しされていること、建築現場には「予定建築物概要」の表示板が掲げられ、富士総業が建築主となっていることなどから明らかである。

被告は、住石扶桑工業が、和環境開発設計との間で、設計・工事管理業務委託契約を締結していることから、住石扶桑工業が建築主であるかのように主張する。しかし、右契約は、富士総業が、平成五年二月ころ、和環境開発設計に対し、建築確認申請書に添付する設計図の作成を依頼した際に負担した費用を、住石扶桑工業において負担する便宜上、締結された形式的なものにすぎない。

また、横浜北労働基準監督署長に対する労働保険の届出も、住石扶桑工業が、労働者災害保険法に基づく当然の義務としてしたにすぎず、これを根拠に、住石扶桑工業が本件建物の建築主であるということはできない。

このように、本件建物は、富士総業が建築主として住石扶桑工業に発注して建設させたものであり、富士総業と住石扶桑工業との間で締結された本件事業協定、本件資産売買契約は、実質的には、本件建物の請負契約にほかならない。

3 以上のとおり、富士総業と住石扶桑工業との間の本件土地売買契約は、不存在ないし無効であり、本件建物は、本件土地の譲受人である富士総業が、建築主として建設したものであるから、原告の富士総業に対する本件土地売買は、措置法三一条の二第二項九号の一団の住宅等の「建設を行う法人に対する土地等の譲渡」に当たる。

したがって、被告が、同号の適用がないことを前提としてした本件更正及び決定は違法である。

4 被告提出の書証の証拠能力について

被告提出の乙二六号証以下の書証には、被告が本訴提起後、国税調査権に基づいて、住石扶桑工業の関係者に照会する等した照会回答書、調査報告書、聴取書(案)等がある。しかし、訴訟が提起された後は、原被告は対等であり、国税当局は、本件について、国税調査権に基づいて右のような調査をする権限はなく、裁判所に対して証人尋問等の申出をせずに、このような書証を提出することは、裁判の対審は公開の法定で行うとの憲法の原則にも反する。したがって、このような違法な方法により収集された証拠は、証拠能力を有しないというべきである。

第三争点に対する判断

一  本件土地売買等の経緯

前記争いのない事実等に加え、証拠(甲二号証、三号証の一、二、五号証、六号証の一、二、七、八号証、一〇号証、一一号証の一、二、一四号証の一、二、六、一〇ないし一二、二〇ないし二四、二六、二七、四一ないし四三、乙一ないし一〇号証、一一号証の一、二、一二、一三号証、一四号証の一、二、一五号証の一ないし五、一六ないし二四号証、二六号証、二七号証の一、二、二八号証、二九号証の一、二、証人清水哲郎、同村松貞雄、弁論の全趣旨)によれば、以下の事実が認められる。

1  富士総業は、本件特例の適用を要望する原告から本件土地を譲り受け、分譲用マンション(仮称グレイス鴨居)を建築、売却することを計画し、ひまわりハウジングが原告との仲介をしていたが、平成四年一二月二二日、原告に買付証明書を交付し、平成五年一月二六日、原告から売渡承諾書の交付を受け、売買の話がほぼまとまった。そこで、同月二八日、原告とともに、横浜市に土地売買等届出書を提出し、同年二月一五日、不勧告通知書の交付を受けた。

富士総業は、原告から、本件特例の適用を受けることを前提に、遅くとも平成五年三月末までには、売買代金の決済をしてほしいと要望されていたため、平成四年一二月ころから、三浦藤沢信用金庫に融資の申入れをするなど、資金繰りを図っていた。しかし、当時、バブル経済が崩壊し、地価が著しく下落した結果、金融機関は、土地だけを担保とする融資に消極的であり、また、融資額の総量規制がされるなど、金融機関から高額の融資を受けることが困難な状況にあり、平成五年二月ころには、資金繰りの目途が立たない状態となった。そこで、富士総業は、かねて取引のあった建設業者の住石扶桑工業に資金繰りの相談を持ち掛けたところ、富士総業に対する直接の融資はむずかしいが、本件土地の所有名義を住石扶桑工業に移転し、住石扶桑工業がマンションを建築するかたちにすれば、同社が系列の金融機関である株式会社住銀ファイナンス(以下「住銀ファイナンス」という。)から融資を受けられるとの回答を得た。そこで、富士総業は、原告から本件土地を譲り受けた直後に、これを住石扶桑工業に転売し、住石扶桑工業が住銀ファイナンスから融資を受けて、富士総業に代金を支払い、富士総業は、これを原告に対する売買代金の支払いに充てることとした。

富士総業は、平成五年二月二五日、住石扶桑工業とともに、本件土地につき土地売買等の届出をし、同年三月一五日に不勧告通知書の交付を受けた。そして、富士総業は、同年三月三一日、原告との間で本件土地を六億二三〇〇万円で買け受ける旨の売買契約を締結するとともに、同日、住石扶桑工業との間で、本件土地を代金六億四一〇〇万円で売り渡す旨の本件土地売買契約(乙七号証)を締結した。そして、同日、富士総業は、住石扶桑工業との間で、以下の内容の本件事業協定(乙一一号証の一)を締結した。

(一) 富士総業は、原告から買い受けた本件土地を代金六億四一〇〇万円で住石扶桑工業に売却し、住石扶桑工業は、本件土地上に本件建物を建設し、本件土地とともに富士総業に売却する。

(二) 富士総業と住石扶桑工業は、共同で、本件建物の建築確認申請を行い、住石扶桑工業は、和環境開発設計と本件建物の設計・管理契約を締結する。

(三) 本件土地建物の売買契約は、平成五年六月四日までに締結することとし、売買(予定)価格は、一四億七一五三万〇二〇〇円とし、国土法の手続後、当事者間で協議の上、決定する。売買代金の支払い時期は、本件建物の完成引渡時とする。

(四) 本件建物の着工は、平成五年五月一〇日、上棟は同年一一月三〇日、完成引渡は平成六年三月三一日の予定とする。

住石扶桑工業は、富士総業に対し、平成五年三月三一日、本件土地売買代金六億四一〇〇万円を支払った。富士総業は、同日、右代金の中から、ひまわりハウジングに対し、仲介手数料として一八〇〇万円を、原告に対し、本件土地の売買代金として六億二三〇〇万円を支払った。そして、本件土地につき同日付けで同月二五日売買を原因として、原告から住石扶桑工業に直接、所有権移転登記がされた。

なお、富士総業は、右金員を土地の売買代金として入金処理し、住石扶桑工業は、本件土地を仕掛不動産として勘定科目に計上した。

2  住石扶桑工業は、平成五年四月、和環境開発設計との間で、本件建物の設計・工事管理業務委託契約を締結し、報酬額を二二六六万円と定め、うち一三〇〇万円を建築確認通知の交付時に、四五〇万円を上棟時に、残金を業務完了時に支払う旨約した。住石扶桑工業は、右契約に基づき、平成五年五月二八日、和環境開発設計に右報酬額のうち一三〇〇万円を支払い、残額を完成時に支払った。

また、富士総業は、本件事業協定の締結に先立ち、平成五年三月一七日、本件建物の建築確認申請を行い、同年五月二一日、建築確認通知書の交付を受けた。そのころ、住石扶桑工業は、本件建物の建築に着工した。

富士総業は、同年五月二八日、住石扶桑工業とともに、本件土地の売買等届出書を横浜市に提出し、同年六月一八日、不勧告通知書の交付を受けた。そして、同日、住石扶桑工業との間で、建築確認通知に基づく建物を完成させ、検査済証の交付を受けることを条件として、以下の内容の本件資産売買契約(乙一九号証)を締結した。

(一) 富士総業は、本件建物の分譲販売を目的として、住石扶桑工業から本件土地建物を買い受けることとする。

(二) 売買代金には、本件土地建物の代金のほか、本件建物の完成に必要な機械駐車施設代金、設計・管理費用、外溝工事代金等一切の諸費用を含み、その総額は、一四億六四三一万〇二〇〇円(土地代金七億一〇〇〇万円、建物代金七億三二三四万円、消費税額二一九七万〇二〇〇円)とし、契約時に手付金一億五〇〇万円を、本件建物の完成引渡時に残金を支払う。

住石扶桑工業は、右残代金の支払と同時に本件土地の所有権移転登記をする。

なお、本件建物の売買対象専有面積に増減が生じた場合は、坪当たり一七九万三八六六円にて売買代金の残代金で精算する。

(三) 本件建物の建築確認通知及びその他の申請は、富士総業が単独名義で行い、また、富士総業は、本件建物の完成引渡までに、検査済証を取得する。

(四) 本件建物の所有権は、残代金支払と同時に富士総業に移転することとし、住石扶桑工業は、その際、本件建物の表示登記申請に必要な書類等を富士総業に引き渡す。

(五) 本件建物の施工は、建築確認通知等の設計図書に基づき、施工元請負住石扶桑工業が行い、設計・管理は、和環境開発設計が行う。

(六) 本件建物の着工は平成五年五月一〇日、上棟は同年一一月三〇日、完成引渡は平成六年三月三一日とする。

(七) 工事期間中に生じた近隣問題等については、住石扶桑工業が、その責任において処理解決し、これに要した費用を負担する。

3  平成六年三月一五日、本件建物は完成し、同月二四日、富士総業は、横浜市建築主事から検査済証の交付を受けた。

なお、住石扶桑工業は、右工事期間中、材料費、外注費等本件建物の工事代金の合計六億四五五三万三〇四〇円(乙一五号証の五)を負担し、これを未成工事支出金台帳に計上した。

富士総業は、住石扶桑工業に対し、前記売買代金を別表「本件資産に係る売買代金の受領状況」記載のとおり支払った。住石扶桑工業は、右金員を不動産事業受入金として入金処理し、富士総業も右契約に従った入金処理をした。

富士総業は、同月三一日、横浜市に対し、優良住宅新築認定申請書を提出し、平成六年四月一二日、同認定書の交付を受けた。

二  措置法三一条の二第二項九号の適用要件について

1  乙三一号証及び弁論の全趣旨によれば、本件特例は、昭和五四年度の税制改正により、当時、用地取得難が深刻化しつつあった小中学校用地等の公的取得の円滑化及びその緊急性が高いといわれた都市地域における住環境として望ましい優良な住宅地等の供給に寄与する土地等の譲渡に限定して所得税の負担の軽減を図るために創設されたことが認められる。そして、措置法三一条の二第一項は、土地等の譲渡が「優良住宅地等のための譲渡」に当たる場合、長期譲渡所得の課税の特例(本件特例)が適用されるとし、同条第二項本文、九号は、開発許可を受けて住宅建設の用に供される一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が当該一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の用に供されるもので、右の土地等の譲渡に該当することにつき大蔵省令の定めるところにより証明されたものが、これに当たると規定する。そして、措置法施行規則一三条の三第一項九号は、右の証明がされた土地等の譲渡とは、当該土地等の買取りをする一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅を建設する個人又は法人から交付を受けた優良な住宅の供給に寄与するものであることについての認定書の写し等を確定申告書に添付することによって証明されたものと規定する。これらの規定等からすれば、措置法三一条の二第二項九号が適用されるのは、当該土地等の譲渡が、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人に対しされた場合に限られると解される。

そして、証拠(乙二五号証)によれば、平成四年一二月二二日付けで国税庁長官が発した「所得税基本通達及び「租税特別措置法(山林所得・譲渡所得関係)の取扱いについて」通達の一部改正について」は、31-2-16で、措置法三一条の二第二項九号に規定する「住宅又は中高層の耐火共同住宅」は、当該住宅又は中高層の耐火共同住宅を建設するために土地等を買い取った個人又は法人が建設した住宅又は中高層の耐火共同住宅に限られるとしていることが認められる。

2  ところで、前記認定の事実によれば、結局、富士総業は、原告から本件土地を譲り受けた後、本件土地上に本件建物を建設することなく、本件土地売買契約により住石扶桑工業にこれを転売し、さらに、住石扶桑工業が本件建物の建築に着工した後、本件資産売買契約を結び、これに従って住石扶桑工業において建築し完成させた本件建物及び本件土地を買い受けたものと認められるのであり、そうすると、富士総業は、措置法三一条の二第二項九号の、「土地等の譲渡を受けて一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う法人」には該当しないというべきである。

原告は、富士総業は、資金繰りの都合上、住石扶桑工業に本件土地を譲渡したかたちにしたにすぎず、本件土地売買契約は存在せず、仮にそのようにいえないとしても、右契約は、虚偽表示ないし心裡留保に当たり、無効であると主張する。

しかしながら、前記認定のとおり、現に富士総業と住石扶桑工業との間で、本件土地の売買契約書が取り交わされ、これに基づき代金の授受がされていること、原告から中間省略として住石扶桑工業に対し、本件土地の所有権移転登記がされていること(なお、原告は、右登記は原告が知らない間にされたもので、無効であると主張するが、甲一四号証の一五ないし一九によれば、原告は、右登記がされたことを知っていたと認められるから、右主張は、その前提を欠き、理由がない。)からすれば、本件土地売買契約をした当事者の意図・目的は別として、右売買契約自体が存在しなかったといえないことはもとより、当事者間に真実、本件土地を売買する意思がなかったということもできない(右契約が無効であれば、何らの法律効果も生じないはずである。)

また、原告は、右契約の実質は、譲渡担保にほかならないから、本件特例を適用すべきであると主張する。なるほど、前記認定の事実によれば、右契約が、本件土地を担保に富士総業に融資を得させる手段としての実質を有することは否定し得ない。しかしながら、当事者間に金銭消費貸借契約が結ばれたり、その利率等が定められていたりしたことを窺わせる証拠はないから、譲渡担保契約が結ばれたと認めることもできない。措置法三一条の二第二項九号は、土地等の譲渡が、一団の住宅等の建設を行う者に対しされた場合に、当該譲渡にかかる長期分離所得に対する課税額を減額することにより、優良住宅地の供給や学校用地の取得を促進しようとするものであり、譲受人において住宅等の建設を行わずに、土地等を転売した場合にも同号の適用の余地があるとすれば、右の趣旨を全うし得なくなるおそれがある。そして、本件特例が本来課せられるべき税負担を特別の配慮から軽減するものである以上、税負担の公平の見地から、その解釈適用は厳格にされるべきであり、右のような実質を考慮して、これを拡張解釈することは許されないというべきである。

また、原告は、本件建物の建築主は富士総業であり、住石扶桑工業との間の本件資産売買契約は、実質的には、本件建物の請負契約にほかならないから、富士総業は、一団の住宅等の「建設を行う法人」に該当するとも主張する。そして、本件建物の建築確認申請等が富士総業の名義でされ、建築確認通知書や検査済証の交付も富士総業に対しされていることは前記認定のとおりであり、証拠(甲一四号証の三八、四四ないし四六)によれば、国土法二四条一項一号に該当しないことの申請及び通知、建築確認申請に伴う消防資料の提出、水道工事に関する確認済証の交付も、いずれも富士総業の名義でされていることが認められる。しかし、これらの手続は、当該建物が建築基準法等の定める基準に適合するかどうかを審査するものであり、真実の建築主が誰かを審査するものではない。したがって、これらの申請等が富士総業の名義でされているからといって、直ちに本件建物の建築主が富士総業であるということはできない(建築現場の掲示板も同様である。)。また、前記認定のとおり、優良住宅新築認定書も富士総業に対し交付されているが、その審査についても、右同様、形式的に行われるものであるから、(乙二八号証)、同様というべきである。

そして、住石扶桑工業が、和環境開発設計との間で本件建物の設計・工事管理業務委託契約を締結し、その報酬を支払っていること(原告は、実質的な設計・管理契約は富士総業が、先に和環境開発設計との間で締結しており、右業務委託契約は、富士総業の支出した設計料等を住石扶桑工業において負担するための形式的なものにすぎないと主張するが、証人村松貞雄の証言によれば、右報酬を支払ったのは、住石扶桑工業であり、本件資産売買契約における建物代金の中にいれるために住石扶桑工業に負担してもらったというのであるから、右設計・工事管理業務委託契約が単に形式的なものにすぎないとは認め難いというべきである。)、本件建物の工事代金も住石扶桑工業が負担したことは、前記認定のとおりであり、また、本件資産売買契約における本件資産の価格及びその内訳は前記認定のとおりであって、右価格自体、具体的に本件土地売買(買戻)代金、請負代金、金利等から構成されているものとは、にわかに認められず(土地代金は七億一〇〇〇万円とされている。)、むしろ、それは、本件資産そのものの価格を表しているものというべきであり(前記認定の一坪当りの価格を示した精算条項もこれを窺わせる。)、証拠(乙二七号証の一、二、証人清水哲郎)によれば、住石扶桑工業は、請負工事よりも付加価値がつくので、右契約に応じることとしたことが窺われるのである。これらの点に照らすと、本件建物は、住石扶桑工業が、本件土地譲受後に自ら建築したものというべきである。

なお、本件資産売買契約書中には、施行元請負住石扶桑工業との記載があり、同社が見積書(甲一〇号証)を作成していること、また、富士総業が本件特例の適用を受けようとして、右契約を結んだことを考慮すると、当事者間では、証人清水哲郎も供述するように、実質的には、富士総業が注文者、住石扶桑工業が請負人であると意識されていた側面のあることは否定し得ない。しかし、前記事情に加えて、請負契約ならば、当然作成されるはずの請負契約書もなく、請負金額も定かではないという本件事実関係のもとにおいて、本件資産売買契約をもって請負契約であると認めることはできないといわざるを得ない。そして、前述のように、本件特例を厳格に解釈すべきことは、この場合も同様である。原告の主張は理由がない。

3  原告は、富士総業の担当者が、神奈川税務署に納税相談に赴き、前記認定のような方法で本件土地を売買した場合でも、一定の条件を満たせば、本件特例の適用を受けられるとの確答を得、横浜市企画指導課からも同様の回答を得たとし、横浜中税務署の電話相談においても、右特例の適用を否定されなかったと主張する。そして、甲一四号証の一、二にはこれに副う記載があり、証人清水哲郎、同村松貞雄もこれに副う供述をする。しかし、神奈川税務署の担当者が誰であったのかも、原告の主張自体、明確ではなく、乙三〇号証によれば、横浜中税務署の職員は右回答を否定する陳述をしており、これらに照らすと、右各証拠は、にわかに採用することができない。また、富士総業の担当者がどのような資料を用いて、どのような相談をしたのかも、右各証拠によっては、必ずしも明らかではない上、一般的には行政サービスに過ぎない納税相談において、相談を受けた税務署の担当職員らが、本件のような場合について、本件特例の適用を肯定したからといって、被告が、本件更正に際し、本件特例を適用しなかったことが、直ちに違法となるともいえない。原告の主張は理由がない。

4  なお、原告は、乙二六号証以下の書証には、違法に収集されたもので、証拠能力がないものがある旨主張する。しかし、被告が本訴提起後、住石扶桑工業の関係者等から任意に事情を聴取する等し、これを書面にして提出したとしても(その信用性、証拠価値はともかく)、違法な収集によるものということはできないから、証拠能力がないとはいえない。原告の主張は、理由がない。

三  結論

以上によれば、被告が、本件において、措置法三一条の二第二項九号の適用がないことを前提に、別紙のとおり原告の平成五年分の税額を算定して本件更正をし、被告主張のとおり本件決定をしたことは適法であり、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 吉田徹 裁判官 近藤裕之)

別紙

一 総所得金額 零円

原告には、平成五年中に次の2ないし4の合計二五四万五一六一円の所得があるが、1の不動産所得の計算上生じた損失金額七〇三万五四五三円を、所得税法六九条一項により、右所得の合計から控除すると、総所得金額は零円となる。

1 不動産所得(損失) 七〇三万五四五三円

2 配当所得 九九万六〇六五円

3 給与所得 一〇九万五〇〇〇円

4 雑所得 四五万四〇九六円

二 分離課税の長期譲渡所得金額 五億一五一八万五八四五円

本件土地は、いずれも譲渡した年の平成五年一月一日において所有期間が五年を超えるから、本件土地の譲渡所得は、長期譲渡所得として分離課税の対象となる(措置法三一条一項、二項)。その金額は、次の1の金額から2ないし6の金額を控除した額である。

1 譲渡収入金額 六億三一一六万円

右金額は、原告が本件土地を富士総業に譲渡したことによる譲渡収入金額である。

2 取得費 四三〇三万一三六三円

右金額は、原告が本件土地を取得する際に要した費用であり、次の(一)、(二)の合計額である。

(一) 甲土地の取得費 一六一三万六四九〇円

右金額は、原告が昭和五七年一二月一五日、甲土地を中山清一から買い受けた際に要した費用である。

(二) 乙土地の取得費 二六八九万四八七三円

乙土地は、原告が相続により取得したものであり、原告が昭和二七年一二月三一日以前から引き続き所有していたものとみなされる(措置法三一条一項、同法施行令二〇条二項)。したがって、措置法三一条の五第一項により、本件土地の譲渡収入金額六億三一一六万円に、本件土地の実測面積の合計一四一六・九三平方メートルに対する乙土地の実測面積の合計一二〇六・九二平方メートルの割合を乗じて算出した、乙土地の譲渡収入金額五億三七八九万七四六二円の一〇〇分の五に相当する金額が、乙土地の取得費である。

3 譲渡費用 八〇六万一一二〇円

右金額は、原告が本件土地を富士総業に譲渡した際に要した仲介手数料等の費用である。

4 不動産所得の損失金額のうち他の各種所得から控除し切れなかった金額 四四九万〇二九二円

右金額は、前記一の1の不動産所得の計算上生じた損失金額から同2ないし4の各所得金額を控除してもなお控除し切れなかった損失金額であり、所得税法六九条、措置法三一条五項二号により、分離課税の長期譲渡所得金額から控除される。

5 純損失の繰越控除額 五九三九万一三八〇円

右金額は、原告の、平成五年の前年以前三年内の各年において生じた純損失の金額(所得税法七〇条)の合計額である。

6 特別控除額 一〇〇万円

右金額は、措置法三一条四項の規定する金額である。

三 納付すべき所得税額 一億五四〇二万八一〇〇円

右金額は、次の1の金額から2及び3の金額を控除した金額(ただし、国税通則法(以下「通則法」という。)により一〇〇円未満切捨て)である。

1 分離課税の長期譲渡所得金額に対する所得税額 一億五四三五万二一〇〇円

右金額は、分離課税の長期譲渡所得金額五億一五一八万五八四八円から所得控除の額の合計六七万七九七六円を控除した後の課税分離長期譲渡所得金額五億一四五〇万七〇〇〇円(前同様一〇〇円未満切捨て)に、措置法三一条一項二号の規定する税率三〇パーセントを乗じた金額である。

2 配当控除額 四万九八〇三円

右金額は、所得税法九二条に基づき控除される金額である。

3 源泉徴収税額 二七万四〇九九円

右金額は、原告が配当金、給与、年金の支払いを受けた際に源泉徴収された所得税額である。

別表 本件資産に係る売買代金の受領状況

〈省略〉

別紙

物件目録

一 所在地番 横浜市緑区池辺町字籔前四二三八番

地目 宅地

地積 二〇九・二六平方メートル

二 所在地番 右同所四二三九番-一

地目 宅地

地積 四三八・〇九平方メートル

三 所在地番 右同所四二四〇番-一

地目 雑種地

地積 八四・〇〇平方メートル

四 所在地番 右同所同番-二

地目 雑種地

地積 一二七・〇〇平方メートル

五 所在地番 右同所四二四一番

地目 雑種地

地積 三八七・〇〇平方メートル

六 所在地番 右同所四二四二番-一

地目 雑種地

地積 一六九・〇〇平方メートル

公簿面積合計 一四一四・三五平方メートル

実測面積合計 一四一六・一八平方メートル

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